情報が錯綜

日本学術会議主催公開講演会「生殖補助医療のいま −社会的合意を求めて− 」』の内容が、いろいろ報道されている。
各種記事を注意深く読んでいかないと、なかなか実態が見えてこない。 なんていうか、マスコミを巻き込んだ宣伝戦、「政治」が繰り広げられているなぁ、と思う。


そもそも日本学術会議の素案はどこまで合意できたのか?


委員長の鴨下重彦と副委員長の町野朔が対立している、とみればいいのかな?

代理出産>是非の結論は持ち越し 学術会議検討委 1月30日20時18分配信 毎日新聞


 鴨下重彦委員長は「大きな結論の変更が必要とは考えていない。(法律で禁止することに対し)皆さんの考えにずれはないのではないか」と話した。

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20070720-OYT8T00063.htm
代理出産禁止「説得力欠ける」


 代理出産などについて、上智大法学研究科教授の町野朔(さく)さん=写真=に聞いた。町野さんは日本学術会議の生殖医療に関する検討会副委員長を務めているが、「あくまで私見」と断ったうえで、次のように語った。


 ――厚生労働省の審議会は2003年に代理出産を禁止する報告をまとめた。これをどう評価するか。


 町野 誰にも子供を持つ権利がある。代理出産を禁止するには、相応の理由がなければならない。他者に害を及ぼさない行為には法は介入しない、というのが自由主義社会の基本だ。私は代理出産の解禁論者ではないが、厚労省審議会では、なぜ法律で禁止し、処罰までするかについて、議論が十分だったと思えない。


 ――厚労省審議会は、代理出産代理母の女性に多大な身体的負担をかける点を問題視した。


 町野 出産で母体の生命に危険が及ぶ場合もあるが、その危険が代理出産の場合に高くなるわけではない。代理母が、そうした危険を受け入れることを承諾すれば、禁止する理由を見つけるのは難しい。ただ、(昨年公表された)高齢の実母に代理出産を依頼する方法は、危険が極めて高いという。そうした問題を一つ一つ検討する必要がある。


 ――代理出産は「人を出産の道具にする」という批判もある。


 町野 精子のできない男性のために、精子提供による人工授精が長年行われてきた。これも「男性を出産の道具にしている」と言えるわけで、代理出産だけを認めない理由としては説得力に欠ける。


 代理出産には弊害があるのか、あるとすれば、どう予防できるか、という観点が重要だ。実際に代理出産を行った人たちの思いにも耳を傾け、議論していくべきだ。(田中秀一)
(2007年7月20日 読売新聞)

なんの問題で対立しているのか?
時事通信の報道でみてみる。

「子の福祉最優先」「禁止に反対」=代理出産めぐり公開講演会−日本学術会議 時事通信
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200801/2008013101097&rel=y&g=pol
2008/01/31-20:14
 第三者に子供を産んでもらう代理出産をテーマに、日本学術会議主催の公開講演会が31日、都内で開かれた。30日に「法律で禁止」の報告書案をまとめた同会議の委員らが出席し、それぞれの意見を表明した。
 まず委員長の鴨下重彦東大名誉教授が、報告書案の概要を説明。「(是非を)決めるのは学術会議ではなく国民、国会。そのための考える材料にしてほしい」と述べた。
 小児科医の水田祥代九州大学病院長は、生殖補助医療によるハイリスク出産の増加や、子供への心理的影響などの問題を指摘し、代理出産に反対。室伏きみ子お茶の水女子大教授は生物学の視点から、遺伝的つながりのない環境の胎児への影響などを懸念、「子の福祉を最優先させるべきで、子供への影響を明らかにせずに技術だけを拡大させることは危険」とした。
 不妊治療に長く携わる吉村泰典慶応大教授は「当事者間で完結しない医療は無制限には認められない。公的機関による審査と長期にわたる管理が必要」と、禁止以外の道を提案した。
 加藤尚武東大特任教授(倫理学)は「ある医療を法律で禁止するには、理論的な想定ではなく臨床的事例による証明が必要。その要件が不足している」とし、禁止に反対。辻村みよ子東北大法学研究科教授も「これまでに出ている禁止論は十分でない」と指摘した。

時事通信の「子の福祉最優先」vs「禁止に反対」というのも、そんなに悪くはないけれど…
「子の福祉最優先」vs「親の生む権利優先」という構図のようにみえる。
別の見方をすれば「フランスのように禁止」vs「アメリカのように解禁」という印象もある。 かなり根深い対立関係だな。

それぞれの立場

・容認派
加藤尚武 東大特任教授(倫理学
辻村みよ子 東北大法学研究科教授


・条件付き容認派
吉村泰典 慶応大教授(日本産科婦人科学会


・反対派
水田祥代 九州大学病院小児科医
室伏きみ子 お茶の水女子大教授


ということらしい。

加藤尚武の立場

加藤尚武の立場については2000年5月10日の論文が参考になるかな。

最新・生命倫理学入門
http://www.ethics.bun.kyoto-u.ac.jp/kato/bioethics.html

不妊の根治型治療が不可能で、救済型治療になるものを人工的に援助して子どもを出産させる技術が開発されている。これらの中には、従来の概念では自然な子ども作りとして認められていなかったものがある。これはもしも(3)非治療型身体介入と解釈するなら、社会的な承認が成立しないので禁止するという可能性もあるが、しかし、(2)救済型治療とみとめることが可能であるなら、それを許容しても良いはずである。

読んでみて非常に違和感を感じる。

生んだ子の母であることは、絶対に譲渡してはならないことであると考えるのがよいと私は思う。すると、生んだ子を養子に出すことも禁止するのかと聞く人があるかもしれない。

こういう聞き方をする人がいるのか???


親と遺伝的なつながりがない子供が、遺伝子な親を知りたがる感情について、こんなことも書いている。

要するに、子どもが自分の遺伝的な親を知りたいと思う理由には、近親相姦の回避、遺伝病の診断という合理的な理由もあるが、漠然とした不安に駆られて、「本当のお父さんはどこにいるか」を知りたがるという非合理的な理由もある。

おやまぁ  「非合理的な理由」かぁ……
合理的考え方をする人間は、そういう感情を持たない、ということなのかしらん。


彼にすれば「合理的に考えれば、代理出産は禁止される理由はない」ということになるのだろうな。
「論理」だけが独走している「机上の空論」という印象が有る。

吉村泰典

 不妊治療に長く携わる吉村泰典慶応大教授は「当事者間で完結しない医療は無制限には認められない。公的機関による審査と長期にわたる管理が必要」と、禁止以外の道を提案した。

こういう発言をした吉村泰典は、日本産科婦人科学会倫理委員会委員長でもある。
彼は2006年11月19日のテレビ朝日サンデープロジェクト」に出演し、根津八紘(諏訪マタニティクリニック院長)と「対決」していたりする。
根津には、かなり批判的だったので、この発言はちょっと意外だった。
http://londonbridge.blog.shinobi.jp/Entry/224/

根津のやり方には批判的だが、世論の動向をみると原則禁止では持たない。 自分なら、もっといいやり方が出来る、ということかな?


辻村みよ子

かつて、こういう発言を残している

 「代理出産を厳しく禁止するフランスでも、現実には行われている」と指摘するのは辻村みよ子(つじむら・みよこ)東北大教授(憲法)。ほかに手段がない人に、自分の子を持つ道を残すべきだと主張している。
http://www.toonippo.co.jp/tokushuu/danmen/danmen2008/0105.html