各国の法規制の現状

日本弁護士連合会が2007年1月19日に発表した提言より引用。

「生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言」についての補充提言
一死後懐胎と代理懐胎(代理母・借り腹)について− (PDFファイル)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/070119.pdf

【各国における法規制の現状】

 代理懐胎契約については、制定法で有効とするのは10州、無効とするのは9州とされ、大半の州が態度を明確にしていない。有効とする州は、アーカンソー、フロリダ、イリノイネヴァダニューハンプシャー、テキサス、ユタ、ヴァージニア、ワシントン、ウェスト・ヴァージニアであり(うち、新統一親子関係法の代理母契約の編を採択しているのは2州)、このうち報酬や対価付きの代理懐胎契約の締結を禁止する州が4州、親となる意思を有する者を親とする明文を置く州が7州である。一方、無効とする州は、アリゾナコロンビア特別区インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシガン、ネブラスカ、ニューヨーク、ノース・ダコダである。また、制定法はないものの、事実上代理懐胎が行われている州も存する。

  • イギリス

 営利を目的とする代理懐胎のあっせんと広告は、「代理出産取り決め法」(1985年)により犯罪とされるが、当事者及び施術をした医師の行為は犯罪とされない。代理懐胎契約は無効ではないが、裁判所に訴えて強行することはできない。

  • フランス

 生命倫理法(1994年、2004年改正)により、生殖補助技術の大半が規律されている。
代理懐胎契約は公序に反して無効であり、認められない。生まれた子と母親との養子縁組についても裁判所は縁組の効力を認めない。

  • ドイツ

胚保護法および養子・代理母あっせん規制法により、代理懐胎は認められない。代理母のあっせん者が処罰されるが、代理母及び依頼夫婦は処罰対象ではない。

 胚の提供が認められてない以上、借り腹は認められない。代理母についても、非配偶者間の体外受精は、利用者について医学的・心理的・社会的審査がなされ、精子の提供者の選択は医師に任されていることや人工授精法に違反した場合の罰則の存在があることから、実施されることは考えにくい。

  • 韓国

 大韓医師協会の「医師倫理指針」が、金銭目的での代理母を禁止しているが、」大韓産婦人科学会の「補助生殖術倫理」では、非配偶者間の人工授精の実施に準じることとし、代理懐胎の実施を間接的に許容している。女性の身体を守らなければならないとする女性団体と、容認を主張する医師団体の立場が対立している。

  • 台湾

 1980年代に生殖医療技術が大きく発展したが、規制する法律はなく、法的規制は、行政令の「人工協助生殖技術管理弁法」(1994年制定、1997年、1999年に改正)による。管理弁法に規定されていない事項は、現行の包括法としての医師法や医療法で対処されている。
 台湾では、儒教や仏教による影響で血縁主義が重視される傾向があったが、一方で家系を維持するためには養子縁組を選択する方法もとられていた。ところが、今日の生殖医療技術の普及に伴い、不妊に悩む夫婦によっては、養子を迎えるより体外受精や代理懐胎のほうが望ましい選択肢にみえ、自分と遺伝的つながりのある子を欲する傾向が強まっているとされる。国民の間で、生殖医療技術が及ぼす夫婦及び生まれてくる子の権利という人権概念への認識が不足しているとも言われる。

 代理懐胎は「人類補助生殖技術管理弁法」により禁止されている。

    • 香港の規制

  なお、香港は、イギリスによる長年の植民地支配により中国と異なる生殖医療技術の規制が存する。法的規制の「人類生殖科技条例」は、イギリスの法律と酷似しており、例えば代理懐胎は推奨されないが商業的でない場合には認められたり、16歳で限定的ではあるが出自を知る権利が認められる。しかし、このように広い範囲で生殖医療技術を認めるのは、家系の維持のためであり、儒教的要素が反映していることも否定できないとされる。香港の生殖医療技術に関する規制が、中国の規制にとって変わられるのか否かは今後の変化を見守る必要がある。