代理出産に関する議論

日本学術会議の素案は3月まで発表見送りということだそうだ。
でも、出てくる素案は、厚生労働省の生殖補助医療部会が2003年に出した報告とほぼ同趣旨なものに落ち着くのじゃないかな。と予想している。
「参考資料」が増えただけ、になるのじゃないか?


厚生労働省関係審議会議事録等 厚生科学審議会 生殖補助医療部会
http://www.mhlw.go.jp/shingi/kousei.html#k-seisyoku
精子卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/s0428-5.html

もめているのは「少数意見」の取り扱いなのだろう。

なお、代理懐胎を禁止することは幸福追求権を侵害するとの理由や、生まれた子をめぐる争いが発生することは不確実であるとの理由等から反対であるとし、将来、代理懐胎について、再度検討するべきだとする少数意見もあった。


基本的な考え方が変わるとも思えない

  • 生まれてくる子の福祉を優先する。
  • 人を専ら生殖の手段として扱ってはならない。
  • 安全性に十分配慮する。
  • 優生思想を排除する。
  • 商業主義を排除する。
  • 人間の尊厳を守る。

以下のところも、それほど変わるとも思えない

  • (1) 精子卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者共通の条件

 子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限ることとし、自己の精子卵子を得ることができる場合には精子卵子の提供を受けることはできない。
 加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない。

  • (2) 精子卵子・胚の提供等による生殖補助医療の施術別の適用条件
    • 1) AID(提供された精子による人工授精)

 精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみが、提供された精子による人工授精を受けることができる。

 女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された精子による体外受精を受けることができる。

 卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された卵子による体外受精を受けることができる。

    • 4) 提供された胚の移植

 子の福祉のために安定した養育のための環境整備が十分になされることを条件として、胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に対して、最終的な選択として提供された胚の移植を認める。
 ただし、提供を受けることができる胚は、他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚に限ることとし、精子卵子両方の提供によって得られる胚の移植は認めない。
 なお、個別の事例ごとに、実施医療施設の倫理委員会及び公的管理運営機関の審査会にて実施の適否に関する審査を行う。

    • 5) 提供された卵子を用いた細胞質置換及び核置換の技術

 提供された卵子と提供を受ける者の卵子の間で細胞質置換や核置換が行われ、その結果得られた卵子は、遺伝子の改変につながる可能性があるので、当分の間、生殖補助医療に用いることは認めない。

    • 6) 代理懐胎(代理母・借り腹)

 代理懐胎(代理母・借り腹)は禁止する。


いろいろと注目な部分は「匿名性」についてじゃないかな?
匿名性っていうとピンとこないけれど、兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供を認めるかどうかについての議論だ。 代理母が「違法」とされたら、次善の策として今後一番要望が強くなってくるケースのような気がする。
該当部分を長いけど引用。

  • 2) 精子卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例

 精子卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例として、兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供を認めることとするかどうかについては、当分の間、認めない。

○ 専門委員会報告においては、精子卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例として、「精子卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合には、当該精子卵子・胚を提供する人及び当該精子卵子・胚の提供を受ける人に対して、十分な説明・カウンセリングが行われ、かつ、当該精子卵子・胚の提供が生まれてくる子の福祉や当該精子卵子・胚を提供する人に対する心理的な圧力の観点から問題がないこと及び金銭等の対価の供与が行われないことを条件として、兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供を認めることとする。」とされていた。


○ こうした結論に至った理由として、専門委員会報告では、(1)精子卵子・胚の提供の対価を受け取ることを禁止することから、提供者がリスクを負うこととなる卵子の提供をはじめとして、精子卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない事態が起こることも想定されること、(2)我が国においては、血の繋がりを重視する考え方が根強く存在していることから、精子卵子・胚を提供する人と提供を受ける人の双方が、兄弟姉妹等から提供された精子卵子・胚による生殖補助医療の実施を希望することも考えられること、等の理由から、提供を受ける夫婦及び提供者に対して兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供による弊害についての十分な説明・カウンセリングが行われ、そうした弊害について正しく認識し、それを許容して行う場合についてまで一律に禁止するのは適当でないというものであった。
 なお、兄弟姉妹等が精子卵子・胚を提供した場合の弊害の発生の可能性を理由として、兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供は認めるべきではないとの強い意見もあった。


○ 本部会においても、精子卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例を認めるのか、認めるとすればその特例の範囲をどこまで認めるかといった論点を中心に数回にわたる慎重な検討がされた。


○ 本部会においては、(1)兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供を認めることとすれば、必然的に提供者の匿名性が担保されなくなり、また、遺伝上の親である提供者が、提供を受けた人や提供により生まれた子にとって身近な存在となることから、提供者が兄弟姉妹等ではない場合以上に人間関係が複雑になりやすく子の福祉の観点から適当ではない事態が数多く発生することが考えられること、(2)兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供を認めることは、兄弟姉妹等に対する心理的な圧力となり、兄弟姉妹等が精子卵子・胚の提供を強要されるような弊害の発生も想定されること等から、兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供については、当分の間、認めないとする意見が多数を占めた。


○ 一方、精子卵子・胚の提供が少なく、提供された精子卵子・胚による生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないことから、匿名での提供がない場合に限って兄弟姉妹等からの提供された精子卵子・胚による生殖補助医療を認めるべきだという少数意見もあった。


○ 以上のことから、兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供は、当分の間、認めず、精子卵子・胚の提供者の匿名性が保持された生殖補助医療が実施されてから一定期間が経過した後に、兄弟姉妹等からの精子卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施の是非について再検討することとする。


○ なお、海外の一部の医療施設では、精子卵子・胚の提供を受けることを希望する者が、自らの兄弟姉妹や友人知人等を提供者として登録することにより、優先的に匿名の第三者から提供を受ける場合があり、こうした提供方法についても、今後、検討され得るものと考える。

あとは、海外の事例・動向について詳しく検討されているのじゃないかな。
外国で代理出産という流れは無視できないだろうし。
生殖補助医療の公的管理運営機関の設置をどうするか、というあたりも若干変わりそうな気がする。