【書評】「フラット革命」第一章へのツッコミ

第一章は毎日新聞の「ネット君臨」を取り上げている。
主に匿名と実名の問題について論じており、「がんだるふ」氏と毎日新聞編集部に取材しているが、明らかにがんだるふ氏への思い入れが感じられる。

がんだるふという存在は、ニフティサーブにおけるある種の良識の象徴だったといっても過言ではない。それだけに『ネット君臨』の記事で彼の名前を見つけたときには、懐かしく感じると同時に、「なぜこのような悪意の存在として描写されているのだろうか」という疑問も持った。
(p39)

佐々木氏はパソ通時代の言論と「死ぬ死ぬ詐欺」事件のことのみでしか、がんだるふ氏のことを知らないらしい。
死ぬ死ぬ詐欺」事件当時には「がんだるふ批判」も一部(?)で盛り上がっていたことについては、調べていないのだろうか。

当時こんなテンプレが貼られていた。

が ん だ る ふ とは
〔本名〕●●●●
〔年齢〕58才(1948年生まれ)
〔過去のHN〕 ギコ@後見人(NHK奇跡の詩人抗議運動時)、robotetsu10(ヤフー用)
〔住所〕 東京都渋谷区●●●●(広尾付近、土地一坪6百万円の超一等地)
〔職業〕 無職(大学卒業後には大手フィルムメーカーに就職したが、一九七九年に退社し、その後はフリーランスとして造形作家活動やイベントなどのプロデュース、科学・児童文学などの著作を刊行していることなどである)
〔著作〕 「ロボットをつくる(ラジオ技術社 、1985/01)」、「機械のことば(ほるぷ出版(1986/04) 」
〔活動歴〕
1948年  東京都渋谷区にて誕生
学生時代 全共闘世代として左翼運動に傾斜
1969年  大手フィルム会社 入社
1979年  大手フィルム会社 退社
 複数の市民運動団体を立ち上げるなど運動を活発化。さらにネット右翼に転向して活動
2002-3年 NHK奇跡の詩人へ抗議運動、神南団扇祭をギコ@後見人として、募金活動などを指導→(嫌がらせ団扇の作成.etc)http://tv.2ch.net/nhk/kako/1027/10279/1027996432.html
神南団扇祭りの記事で毎日新聞にクレーム
2005年 資生堂ハゲ侮辱事件で運動→(資生堂への電話、担当者に面談.etc)
http://sconnery.exblog.jp/
2005年 のまネコ問題で運動→(エイベッ糞とタイトーへの不毛な電話。ビラ配り ゲリラ .etc) **http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%AE%E3%81%BE%E3%83%8D%E3%82%B3%E5%95%8F%E9%A1%8C
2005年09月 ホワイトバンド詐欺に抗議する運動に参加 **http://whiteband.sakura.ne.jp/
2006-7年 子供の心臓移植募金運動に抗議する運動に参加→(対象団体を訪問、ネット上で扇動工作.etc) **http://tri.xxxxxxxx.jp/
2007年1月1日 毎日新聞元旦記事で全国にその名前が知られる

〔戦術〕 †
 ・嫌がらせ団扇の作成 ・ビラ配り ゲリラ ・エイベッ糞と タイトーへの不毛な電話。 ・問題PRのためのお持ち帰りTAGの配付。 ・各種啓蒙活動 ・攻撃対象の電話番号晒し ・攻撃対象の自宅写真晒し


http://bokin.biz/wiki/

真偽不詳の部分も多々あるわけだが、これらについて佐々木氏は調査とかインタビューしなかったのだろうか?  特に、「戦術」のなかにある「攻撃対象の電話番号晒し ・攻撃対象の自宅写真晒し」については、どう考えているのだろうか? がんだるふ氏がこのような戦術をとっていたとするならば、「悪意の存在として描写」されてもしようがないのではないのか?


毎日新聞の「電凸」に付いての記述について考察しているblogがある。 
散歩道「毎日新聞はなぜネットを目の敵にするのか」by oneearth さん
http://kuyou.exblog.jp/5121154/


佐々木氏は、この程度の調査・取材もしていないのだろうか?


2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)」での西村博之氏との対談で、佐々木氏はこう述べている。

佐々木 (…)たとえば凄いアジテーターみたいな人が出現してきて、2ちゃんねるとかブログの世界で人気が出てくると誰が止めるのかという話になる。戦前の日本では新聞がみんなで戦争をやろうと大騒ぎして、そこには公共性がなかったんです。それと同じように、今のインターネット上は、戦前の新聞と同じで、ある種の集合知でありつつ、集合愚でもあるわけです。インターネット上のアジテーターの発言にみんなが突っ走っていってしまうと、サイバーカスケード(インターネット上における集団分極化現象)のような状態が起きてしまう。そういったファシズムにも似たものが出現した状況の中で、それを止める能力があるのかどうかということになる。


これは「ネット右翼」を念頭に置いた発言だとは思うが、佐々木氏がネット右翼に持つ懸念と同じモノを、毎日新聞はがんだるふ氏に感じていただけではないのか?


2005年暮れの耐震偽装騒動では、民主党馬淵澄夫議員が「きっこの日記」との共闘を表明していたりする。 きっこさんは匿名のアジテーターみたいな人じゃないのか?
「古い新聞やジャーナリストは、匿名言論にどう対処していいか分かっていない」と佐々木氏は述べるが、2005〜2006年頃の「きっこの日記」に対して、新聞・マスコミはどういう態度をとっていたのか彼は覚えていないのだろうか? 当時のマスコミは、きっこさんの活躍を賞賛していたのではないか?


古いジャーナリストは、「匿名言論が嫌い、問題があると思っている」というよりは、そもそも言論の中身のほうが大嫌いなのだろう。 匿名であっても、2005年暮れの巨悪を暴く(!)「きっこの日記」は大人気・大歓迎だったのだから。