日本の代理出産に関する意識調査

Yahoo!とかのネット調査はいまいちアテにならないので、もうちょっと信頼性がありそうな調査を探してみた。

立命館人間科学研究」No. 15 2007年10月 代理出産を容認する条件の検討
 ―ケアリングによる身体の道具化の克服をめぐって― 貞岡 美伸
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/hs/hs/publication/files/ningen_15/ningen15_127.pdf

から引用

2.日本の代理出産に関する意識調査


日本では代理出産に関する意識調査が実施されてきた。不妊症患者に特化しない,一般市民や看護学生などを対象にした調査については以下のようなものがある。


13年前の小意(1994)の調査では,アンケートの最初に代理出産及び借り腹に関する一般的な説明文を挿入し,A地城一円の不特定多数の一般市民に配付した結果,対象者301人中の73.8%がホスト・マザー型を認めていた。


山解(2003)の調査では,対象者は全国200地点から無作為抽出した5846名の男女である。調査票の配付は,調査票のみ配布群と生殖補助医療技術について理解を深めるために作成したリーフレットの配付群の2つである。
ホスト・マザー型の代理出産を全対象者3623名中の約44%が,一般論として,条件付きで認めて良いとしていた。


A府・B県下6大学の学生を対象とした都間(2005)の調査では,講義・部活動で調査日的・内容を説明し,質問紙で代理出産の説明や日本での現状を情報提供した。医療系の大学生は対象外とした。調査の結果,妊娠・出産経験の無い大学生850名中の約80%が代理出産を認めるとしていた。


短期大学看護学生を対象とした吉田(2006)の調査では,母性看護学の妊娠・出産の講義と生殖補助医療について技術的方法の説明を受け,さらにA俳優が依頼者となったホスト・マザー型代理出産の事例の説明を受けた後に行われた。
その結果,看護学生175名中42%がホスト・マザー型代理出産に賛成していた。


山下(2005)の調査では,調査に同意した177名の調査対象者において,生殖医療に関わる医学研究者と非生物系理系研究者は,ホスト・マザー型を認めるか認めないかについての意見が2分していた。


一方,丸山(2006)によれば,不妊治療を受けているカップルを対象として生殖技術に対する態度の意識調査を行った結果,代理出産を認めるべきだと答えた者は,全回答者の1/3にすぎなかったという。
この結果から,丸山は不妊治療中のカップルは第三者介入の生殖補助医療(代理母代理出産・非配偶者間の体外受精)に許容度が低い傾向があると考察している。


以上に述べたように,小意(1994前掲)・山解(2003前掲)・都間(2005前掲)の調査結果は,ホスト・マザー型代理出産に対して,約40〜80%の一般市民が肯定的であることを示唆している。
しかしそれは別の見方をすれば,丸山(2006前掲)のような不妊治療を受けているカップルも含めて,代理出産の是非に関して意見が分かれていることも同時に示している。
一方,上記を含む近年の代理出産に関する調査では,代理出産を選択する可能性が最も高いと思われる当事者,すなわち子宮を失った女性や,そうした事情をもつ夫婦を対象者として特化した調査は行われていない。


丸山(2006前掲)が対象とした不妊カップルにしても,子宮を失った女性とその夫婦は,通常の不妊治療を受けないため,代理出産を必要とする可能性の高い当事者を代表にしているとはいえない。
したがって,代理出産のような第三者が介入する生殖補助医療に対して,子宮などを失った女性やそうした事情をもつ夫婦の許容度が低いか否かは,別途調査をして検討しなければならないだろう。


代理出産に関する意識調査の結果は,調査者の目的や,代理出産の実態や問題性について調査対象者がどの程度の情報を持っているかによって影響を受ける。
したがって,代理出産の是非をめぐって意識調査結果を参照する場合,その調査の性格について慎重に検討する必要がある。
また,代理出産の是非は少数者の権利に関わる問題でもあるため,意識調査における代理出産への賛否の比は,代理出産の禁止や合法化の決定的な理由とはならない。


山崎も述べるように,代理出産問題には,倫理的・道徳的に多元主義が許容される自由主義社会を望ましいと考えるか否か,という社会選沢の問題が含まれている(山崎1993)。


子どもを産む/産まないの決定を,女性やカップルの権利として認める考え方は,自由主義的な先進諸国では浸透している。その延長で,不妊の人々が生殖補助技術によって子どもを持つ/持たない権利についても,夫婦間の体外受精など一部については容認されている。


代理出産を公共の秩序に反するとして,一律に子宮を失った人の子どもを望む権利や自由を制限し,代理出産を法的に禁止することを正当化するためには,代理出産がその他の容認されている生殖補助技術と何が違うのか,その違いがなぜ子どもを持つ権利の制限の根拠となるのか,明確にされなければならない。また,その根拠はどのような条件のもとでも揺るがないものであるのか,代理出産にそうした根拠を克服する可能性が全くないのか,吟味する必要もあるだろう。


以下,第3節では,代理出産を制限する代表的な根拠のひとつである「身体の道具化」をめぐる論争を分析し,代理出産の身体が道具視されないための条件について検討する。第4節では,道具視を克服する条件として代理出産における当事者間のケアリングの可能性に言及しつつ,今後の課題を展望する。


こっちの調査も興味深い

生殖補助医療をめぐる不妊当事者の行動と意識
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/news/news0705.pdf
(2006年12月〜2007年1月 調査)

調査結果のポイントから

不妊を心配し始めた時期と治療を開始した時期 (P2)
不妊当事者の8割以上が「結婚(または同居開始)後、5年以内」に不妊を心配し始めている。
○同じく、8割以上が「結婚(または同居開始)後、5年以内」に不妊治療を開始している。


不妊治療を行った期間 (P3)
○治療の期間は、2年以内が50.9%で最も多く、5年以上治療を続けている人は14.2%に留まった。


これまで受けた治療の種類と今後の予定 (P4)
○回答者の8割以上がタイミング法を、6割前後が人工授精や体外受精による治療を経験している。
体外受精の「経験率」と「予定・希望率」には乖離があり、経済的要因の影響が考えられる。


「社会的に認められない」治療の種類 (P5)
○3人に1人が「胚提供を伴う体外受精」や「代理母」について「認められない......」としている一方で、「代理懐胎(出産)」を「認められない」とする人は2割未満であった。


「社会的に認められない」と考える理由 (P6)
○「配偶子提供を伴う体外受精」を認めない理由は、「育ての親と血がつながっていないから」(54.7%)
が最多で、次いで「家族(親子)関係が不自然になると思うから」(44.5%)となった。
○「代理母・代理懐胎(出産)」を認めない理由は、「家族(親子)関係が不自然になると思うから」
(45.5%) が最多で、次いで「商業的に利用されると思うから」(42.4%)となった。


配偶子の取り扱いについて (P7)
○「胚提供を望む第三者に提供すること」には8割以上、「廃棄すること」には7割以上が抵抗感を示した一方、「研究のために利用すること」に抵抗感を示した人は6割未満に留まった。


出自を知る権利について (P8)
○半数以上の人が「基本的人権として子どもには事実を知る権利がある」と回答している。