TBS不二家報道をチェックしたBPOみたいな本「フラット革命」

フラット革命」の中の「ことのは事件」についての記述を、ちょっと検証

佐々木氏は事件を、泉あい、ume、松永各氏への取材をもとに再構成している。
取材相手に関して、都合の悪いことは書かないというポリシーがあるのかな?
ずいぶんと不十分な「検証」、というか一方の当事者の証言のみでつくられた「物語」でしかないな。 

報道機関設立計画について

さて、umeという人は心底から、善意の人である。
umeは、後に私の取材にこう話している。
「あいさんは前は茶目っ気たっぷりの女性で、まじめに人生を語るようなタイプではなかったんだけど、僕と知り合ってからしばらくして乳ガンに罹り、それがきっかけですごく人間性が変わったんです。真剣に人生を考えるようになり、僕に『乳ガンの闘病記をネットで書いてみたい』と相談してきた。それがきっかけで、僕は彼女のサイト運営を手伝うようになったんです」
 umeは「おもいきり書きなよ、手伝うから」と彼女をうながし、そしてサーバーも用意し、サイトも構築してあげたのだという。
(p226)

ume&泉の関係はそれだけではなかったはず。
泉氏が、かつてgooに載せたプロフィールはこんなだった。

泉 あい
山口県出身。音楽講師を7年勤めた後、結婚のため上京。主婦をしながらOLとして働いていたが、2001年DVにより結婚生活は崩壊。同年、新しいスタートを切ろうとした矢先に乳がんを宣告される。読者とともに歩むルポライターを目指して、2005年1月「GripBlog ?私がみた事実?」を開設。ブログ・インターネットを拠点として、取材活動を行っている。
http://blog.goo.ne.jp/election2005/e/d76483b63c4d1ddd189711abdb45776b

ume氏の証言だと、2001年頃に二人は知り合ったということになる。
2004年に、泉氏は会員制で病気の話をする「シングルと病気」がテーマのサイトを運営しています。 手作りSNSという感じなのかな? これがネットジャーナリズムを目指すきっかけになった、という「物語」になっています。


しかし騒動のさなか、泉氏が会員制アダルトサイトの運営をしていたことが発覚しています。

W I S H 〜禁じる想い〜
抑圧されたもう一人の自分と素直に向き合うサイトです
http://web.archive.org/web/20030118102127/http://www.chu-site.com/phpbb2/

umeは2003年頃の変態出会い系サイト運営の「パートナー」であるらしいが、そのことについて佐々木は何も書いていない。 単なる「噂」で、事実無根のことと判断して、聞いてもいないのかな?
後の報道機関設立企画につながる重要なことと思われるのだが、スルーされている。

報道機関を泉愛が考えるようになったのは、先にも書いたようにグリップブログでの取材活動が行き詰まり、生活する資金が枯渇してしまったからだった。この時彼女は、OL時代の貯金を切り崩して取材活動を続けていこうと考えた。だがumeはそう宣言する彼女に対し、「だったら、なんか形にしてみようよ。何か新しいことができるかもしれないし」と助言したのだった。
(P226)

この記述には、かなり疑問を感じる。
グリップブログは、最初からそれなりの戦略をもって運営していたのではないのか?
「ネットジャーナリスト」としての実績をつくり、その実績を元に人脈を築き、知名度を上げ、そして報道機関というかネットジャーナリズムサイトの設計・運営することを当初から考えていたように見える。(非難しているわけではない。)

そうして彼はインターネット上の報道機関のシステムを考え、その草案をつくったのだった。ウェブのプロフェッショナルが作っただけのことはあり、草案はインターネット上のコミュニティと記者クラブ、取材するジャーナリストをうまく融合させた、かなり完成度の高いもので、収益モデルも練り上げられていた。
 彼女はこの草案を持って、ジャーナリストやブロガー、経営者、ベンチャー企業関係者などさまざまな人に会いに行った。
(p227)

草案は頻繁に「進化」していったので、佐々木氏はどの時点のものをさして「完成度が高い・収益モデルも練り上げられていた」と評価しているのだろうか?
泉氏は、10月末に報道機関設立の草案を持って企業や記者に頻繁に合っているなかで、有る記者からこんなことを言われ、驚いたとブログに書いています。

全部で60人から70人ぐらいの会社組織になるし、フリーランス記者や研修中の記者も入れると・・・・
となると、どう考えても億単位のお金が必要なわけです。思わずブルブルっと震えちゃいました。

この当時の最初の企画書は表紙を含めて19ページの、まぁそれなりの力作が公開されていました。「ジャーナリスト」の1万人利用登録を目指していました。


2005年11月23日書き込みでは

システムは、コミュニティに詳しく豊富なアイデアをお持ちでアフエリエイトにも精通した方と、「Grip Blog」や「GripForum」を作ってくださった方の2名にお任せしています。
まだ決まっていない報道担当の責任者を一日も早く決定しなければならないのです。
登録してくれるジャーナリスト・目標100人!!

1万人から100人へ…
当初は「大風呂敷」を広げた夢みたいなプロジェクトが、だんだんと具体的・現実的に練り上げられていった、という事かもしれないが……



この件に関しては、「GripBlog報道メディア設立企画書について思うこと(1)〜(8)」の併読が必要不可欠。
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblog_0840.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblog_8923.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblog_336b.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblog_8957.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblog_5a9c.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblog_c346.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/post_cdef.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblogbb_1230.html

不思議なのは、相談を持ち込まれた人物や会社は多いはずなのに、この点に関して証言が全く出てこないことである。誰も、面倒なオウム問題に巻き込まれたく ないとおもっているのかもしれないが、この件もしも全くの「潔白」であれば、企画構築のプロセスを知っている人が語ってくれれば、なおさらそれはクリアに なると思う。迷っている人はいないか。匿名でもいいので公開してくれないだろうか。


「GripBlog報道メディア設立企画書について思うこと(8)----結局BBは何が言いたいのか」
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/05/gripblogbb_1230.html


残念ながら、泉氏佐々木氏には、公開する予定は無いようだ。

後に私の取材に、彼女はこう答えている。
「私は、誰に協力してもらったかっていうのは、墓場までもっていこうと思っているんです」
(P236)


佐々木氏は、自身が報道担当の責任者として要請され断ったことを本書の中で打ち明けている。
しかし、そのほかのキーマンや相談を持ち込まれた人物や会社については、まったく触れられていない。 「墓場まで持っていく」ことを容認しているようである。


「完成度が高い・収益モデルも練り上げられていた」と評価している報道機関設立計画企画は、何故潰れてしまったと、佐々木氏は考えているのだろうか?
一連の騒動のせいなのだろうか?  ネットでの「オウムアレルギー」のせいなのだろうか? 泉・umeが対応を誤らなければ、まだ目はあったのだろうか?


泉氏が相談した相手は、当時どう考えていたのだろうか。 騒動をどう見ていたのだろうか? そして現在は?


たとえば、湯川鶴章氏はアドバイスをしていたはずなのだが、彼の当時のアドバイスはどんなものだったのだろうか。
湯川氏の当時の「参加型ジャーナリズム」論はこんなかんじだ。

 わたしの市民記者サイトに対する期待は団藤さんのそれとはちょっと異なり、個々の記事の質に関してはそれほど問題にはしていない。量の制約を質でカバーするのが既存メディアであり、個々の質の問題を量で圧倒するのが新しいネットメディアだと思っているからだ。
2005-08-01
http://kusanone.exblog.jp/2139943/

こっちで批判検討されていたりする。

質を問わない「参加型ジャーナリズム」って意味あるの?  2005年08月06日(すちゃらかな日常 松岡美樹)
http://blog.goo.ne.jp/matsuoka_miki/e/9d2fc18fda0eeae74ae3fafc23f02512


「個々の質の問題を量で圧倒するのが新しいネットメディア」てのがなぁ… 結局はこの言葉のため、自身や関係者の炎上をスルーできなくなってしまった。 現在はどう考えているのだろうか。


佐々木氏は、報道機関設立企画問題についてこれ以上の追及はしないでおくようだ。
誰に相談したかははともかく、相談された人が断った理由くらい調べて欲しかったな。 
書けない、書かないのは、たとえ「匿名」にしても「匿名」にならないIT業界・マスコミ業界の狭さのせいなのだろうか?


訴訟騒動

そうして彼は、「黒幕だ」「マインドコントロールしている」と書き込んだ人物に対してメールでの連絡を求めたが、しかしこの人物からの連絡は最後まで来なかった。
しかしこのあいだも、泉あいのブログは炎上し続けた。
(P240)

さらっと3行で済まされてる。(苦笑)  あちこちに飛び火したことも、スルーかぁ…
私は、ここあたりの経緯が「ことのは事件」のキモだと考えているので、この記述にはかなり失望した。


まず、メールの連絡を求めたのは「訴訟のため」だったということが、抜けおちている。

黒幕と噂さ
http://gripblog.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_5187_1.html

グリップブログが炎上している真っ最中に、湯川鶴章氏がポッドキャストで泉あい氏との対談を公開し、すぐに削除することになる。「訴訟を勧めているような誤解を与えた可能性」が有ったため大炎上。

ネットは新聞を殺すのかblog
「泉さんのエントリーを削除した件について」
http://kusanone.exblog.jp/m2006-04-01/


訴訟問題の当事者である黒崎氏が、この件を検証している。

2006年05月07日 茶番について
http://kurosaki-yowa.seesaa.net/article/17481076.html
いくつかの事実が明らかになる。
ume氏とは何度も話し合って、それから後にあのインタビューを作成している。泉氏の証言は大変に重い。
http://kurosaki-yowa.seesaa.net/article/17278043.html(冗長な省略)


不思議だったのは、この辺りの流れである。
http://kurosaki-yowa.seesaa.net/article/17258288.html(恫喝について)
http://kurosaki-yowa.seesaa.net/article/17255460.html(ume氏へ 3)
唐突にume氏の名前が出てきていることに注意していただきたい。
その裏が泉氏の証言でとれた。
つまりは、あのインタビューは当事者であるume氏から何度も事情を聞き、それを真に受け、その上で泉氏を呼んでなされたものであった可能性が極めて高いのである。


違うというならば反論をしなければならないが、そのような言説は一切ない。

歌田弘明氏も炎上することになる。
歌田氏とBigBang氏のメールより
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/06/post_629e.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/06/post_6082.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/06/post_b909.html
http://ultrabigban.cocolog-nifty.com/ultra/2006/06/post_9350.html

 あなたは、そもそもume氏の挙動に異様なまでの関心をお持ちですが、私には、とりたててume氏の発言を追及する理由がありません。もしその発言に多少の違いがあったとしても、ume氏に根拠なく言うにはあまりに重大で不当な疑い(つまりオウムの関係者であるということ)がかけられてきたことは、ネット上で誰でも知りうる事実ですから、そういう意味で被害をうけたことは明白ではないでしょうか。


疑いをかけた方に必要なのは、謝ることであって、あなた(方)のほうで何らかの具体的な追及理由を示さないかぎり(示しているつもりなのかもしれません が、あなたの発言をざっと拝見したかぎりではとても理解できるものではありません)、これ以上追及する必要も、またするべきでもないのは明らかです。あなた方のやっていることは、まったく理解できない所業です。

いきなり最初から名誉毀損の訴訟、そのために個人情報を求めるという手法がオウムっぽいという疑惑。 そもそも筋違いではないかというのから始まって、事実関係に不明の点が多い、事件がネットで知られるようになってから退社までの時間が短すぎではないか、という疑問が山のようにある。


ume氏の件に関して「異様なまでの関心」「重大で不当な疑い」と歌田氏は書くのだが、そこまでume氏を信じていることの方が不思議で不自然に思えた。
湯川氏がume氏とリアルで交流が有ったらしい、ということを踏まえると、歌田氏もume本人をリアルで知っていたのではないか?


不思議なのは、佐々木氏は第一章のさくらちゃん募金をめぐる論点として、情報の透明性の問題を挙げている。
さくらちゃん募金に対してのネットの騒ぎには「かなり妥当性のある批判だと当時受け止めていた。(p22)」と書いている。 しかし「ことのは問題」では、事実関係の追求に関しては当時は妥当性がないと受け止めていたようだ。 この差は何処にあったのだろうか?


「ことのは事件」の炎上は、泉氏の報道機関設立計画の情報の透明性が当時足りなかったのが原因のひとつだったと現在考えているのならば、なぜ本書でそこあたりを書かないのだろうか?
この本では、結局は当時出てきた情報以上のことは、ほとんど何も書かれていない。


佐々木氏は「ことのは問題」はすでに十分に公開され、議論が尽くされたと考えているのだろうか。 この本の出版で「これ以上追及する必要も、またするべきでもないのは明らかです。」ということにしようとしているようにも思える。


本書では三行だけ、そして『メディア・イノベーションの衝撃』という当時の雰囲気を伝える記録との同時期の出版という動きからも、そういった意志を感じるなぁ。







長々と書いてはみたが、以前あれこれ書いたことの繰り返しになっちゃったな。
http://londonbridge.blog.shinobi.jp/Category/4/