アメリカ映画「硫黄島からの手紙」

硫黄島からの手紙 (特製BOX付 初回限定版) [DVD]
日本を舞台に、日本人が演じているが、やはりこの映画はアメリカ映画だと思う。
「世界標準」というか「アメリカンスタンダード」な戦争映画だ。 古典的なアメリカ戦争映画の伝統の延長線上に、丁寧かつ保守的というか手堅く作られていると感じた。


父親たちの星条旗」の方は2006年制作という事に、かなりの意味があるのだろう。映像表現にしても、さまざまな技法が取り入れられている。
それに比べるとこちらは、まるで1950〜60年代の戦争映画のような雰囲気だ。 さすがに「敵」の描写は違うものの、軍隊モノとしては非常にオーソドックスな作りだった。


硫黄島の砂」と比べるのはちょっと複雑な気分ではあるが、厳しい訓練、上官との軋轢、仲間との喧嘩と友情、銃後で待っている恋人、家族からの大切な手紙、等々共通するモチーフは多い。


そもそも主要な登場人物である栗林中将やバロン西は「国際人」という性格付けがされている。
二宮和也が演ずる西郷の視点で物語が進むけれど、西郷も「当時の日本軍人」というイメージでは描かれてはいない。 戦場に連れてこられたパン屋さん、憲兵に潰されたパン屋さんという、「現代人」や「アメリカ人」にとって感情移入しやすい人物設定となっている。

丁寧に再現されたセットやロケ地で、事実を元にしたシナリオによって、日本人の行動を淡々と一定の距離を置いて撮っている。


監督インタビューで、そこあたりが語られている。

http://www.fujitv.co.jp/iwojima/eastwood.html
伊藤淳史: 映画の中で、日本兵が自決するシーンがあるのですが、この日本人独特の真理を世界の人々は理解できるのでしょうか?


イーストウッド監督: 理解できるかどうかは分かりませんが、自らの命を絶つということは、アメリカ人である私には共感できません。しかし、これはあの島で実際に起きたことで、彼らかどのような心境であったのかを探求することに興味がありました。噂では栗林中将軍は自決に関しては反対していたそうで、私たちはそこからストーリーを取っています。彼は生きていない兵士は何の役にも立たないと考えていたようです。最後まで戦えるように、生きていないといけないと。

しかし指揮官の中にはそれに同意しない者もいたようです。攻防戦でトンネルを掘ることに反対する指揮官がいたように。これらは全て文章で残っています。

私は硫黄島に行った時、手榴弾で自決したとされる場所に行きました。私には硫黄島で戦った兵士としての経験はないので、理解するのはとても難しく、そのむなしさは全く理解できません。敵に殺されるよりは死んだ方が良いという考えだったのでしょう。でもこれを理解するには、通常とは全く違う精神状態が必要だと思います。なぜそのようなことをしたのかという興味深い疑問を観客に投げかけています。そのために、西郷のキャラクターが本当の指令を聞いてしまうという、ストーリー設定にしています。理解しようとするにもかかわらず、それができずに、そうであるべきだという考えに達するのです。


1950〜60年代の米国戦争映画と一番違うのは、これが負け戦を描いていること。
これはやはりベトナム以降ということになるのかな。
父親たちの星条旗」にしても勝ち戦を描いているわけではないけども。


イーストウッドが主演・監督したハートブレイク・リッジ 勝利の戦場 [DVD]には、「朝鮮・ベトナムと負け戦ばかり」というセリフがあった。
グレナダ侵攻作戦が、第二次大戦以降久しぶりの「ささやかな」勝利という感覚だったらしい。
そういえば、その後の軍事介入でアメリカの「勝利」と思えるモノは無いのかも。
湾岸戦争で、一時は勝利の気分を味わえたようだが……