伊東乾氏がかたる「マインドコントロール脳」の謎
さよなら、サイレント・ネイビー ――地下鉄に乗った同級生の記述は相棒との掛け合い漫談っぽいので、論座4月号の森達也氏との対談から引用します。
被験者にはまず最初、ヘッドギア付きで部屋に入ってもらうんです。手前にビデオがあるんですが――どこかの新興宗教であったような話ですけど――ちゃんとした認知実験です（笑い）。第一のコンテンツは、説明を受けないと何だかよくわからない、実はイラクを空爆中の兵士が見る赤外線カメラ映像。第二のコンテンツは、視覚的にはっきりとらえられる、「テロリスト」*1に誘拐された方が残虐な方法で殺害される映像、どちらもネット上にあって子どもでも見ることができるものです。これを提示しながら、試聴時の脳血液中の酸化ヘモグロビン量を測ります。どんな内容の映像かは被験者には言っていません。「なんだか嫌なものらしい」とわかると、還元ヘモグロビンが増えて酸化ヘモグロビンが減っていく。酸欠の状態ですね。意識や高次の認知をつかさどる前頭前野の連合野、つまり意志を持ってしっかり者を考える部位が、みるみる虚血化する。ものが考えられなくなる。コンテンツが終わった後も、しばらくその状態で虚血が進みます。
（略）
こうした実験を通じて、人間が、いかに「動物」かと言うことを、かなり知ることができます。恐怖で思考停止になった部分を一定程度定量化できる。これは画期的なことです。アタマの中で考えた／考えていない、という水掛け論に終止符が打てる可能性がある。これを、確かな議論ができる方向に持ってゆきたいですね。
この機器を使っている模様。
島津製作所 近赤外光イメージング装置「NIRStation」 http://www.med.shimadzu.co.jp/products/om/01.html
さよなら、サイレント・ネイビー ――地下鉄に乗った同級生での描写。
「すごい！ まっさおじゃん」
M君の脳血流可視化像のプリントアウトを、いつもの新宿の喫茶店の机の上に出して見せた。相棒は文字通り目を丸くした。
「脳細胞が窒息している。このままの状態が続くと虚血で細胞が死んじゃうかもしれない。」と私。(p261)
これを読んで連想したのは「ゲーム脳」と「あるある」だ。
この研究成果を根拠に、裁判制度を批判している。
- ４ マインドコントロールされて犯行に及んでいるとき実行者はどういう意識だったのか?
- ４−２ 恐怖によって大脳皮質は虚血状態となり、『大脳の退化した二足獣』になっている。現行法や裁判は、このような人間の生理を的確に酌量しやすいシステムになっているとは言いがたい。
(p262)
裁判に臨むのならば、それなりの論文とか、他の研究者の検証が必要なのではないか？
「マインドコントロール脳」というモノがあって、そのため責任能力を問うには問題がある、ということらしいが…
昨今の「脳ブーム」に便乗し、「ゲーム脳」に続けとばかりに大衆紙的というか、「あるある」風に煽ろうとしているだけだな。
認知科学・アフォーダンスの主要参考文献として5冊載っている。 そのなかに「脳とクオリア」（茂木健一郎）がある。
その茂木が書評で、脳の話には一切触れていないのが気になる。
産経新聞書評 評者：茂木健一郎 http://www.sankei.co.jp/books/shohyo/070107/sho070107008.htm
先日、茂木がバラエティ番組で「アハ・スリラー」なんて言ってた。（世界一受けたい授業）
「恐怖は脳の奥の爬虫類部分で感じている。 恐怖を感じることで、脳は活性化する。 云々」だそうだ。（ちょっと曖昧な記憶だが）
前頭前野の活動低下をちゃんと検証したかったら、PET（Positron Emission Tomography＝陽電子放射断層撮影法）、fMRI（機能的磁気共鳴画像装置：functional Magnetic Resonance Imaging)、MEG（脳磁界計測装置：magnetoencephalography)なんかが、研究者としては常識的な手段であるらしい。
被験者の人数や、比較するため他の映像を見せたときや、その他の行動したときの差なども不明だ。
なにか不気味な脳の映像だけが根拠では、疑似科学と疑われてもしょうがないだろう。
東京大学関係者にも「ゲーム脳」を研究している人がいるのだけれど、協力とかアドバイスはあったのだろうかなぁ？ 彼らは「水掛け論」をしているわけではなさそうだけど。
東京大学大学院情報学環・学際情報学府 馬場研究室
http://chi.iii.u-tokyo.ac.jp/
東大の博士論文 「テレビゲーム使用時における前頭葉の血流変化：近赤外分光法による検討」（2004年11月25日）
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/jpn/kyokan/ronbun/ronbun_11_25_matsuda.html
【参考】
tv-game.com の「ゲーム脳」徹底検証シリーズ
*1:テロリストに括弧付きはママ そういう政治的立場の表明なのだろう
