【書評】さよなら、サイレント・ネイビー―地下鉄に乗った同級生

4時間くらいで、ざっと読了。 
テレビ特番を単行本にしたのじゃないか、と思うくらいの軽い印象だった。
最終章がいささか難解なので、そこは「後で読む」ことにする。

さよなら、サイレント・ネイビー ――地下鉄に乗った同級生

さよなら、サイレント・ネイビー ――地下鉄に乗った同級生

著者・伊東乾さんインタビュー http://www.yukan-fuji.com/archives/2006/12/post_7963.html


第4回開高健ノンフィクション賞受賞作だったんだな。 http://www.shueisha.co.jp/bungei/metro/
顔が怖いw


選考委員は、重松清 田中優子 筑紫哲也 佐野眞一 崔洋一
受賞反対は崔洋一だけ。 他の4人は「ノンフィクション」としては疑問を持ちつつも推薦、オールオアナッシングの議論になるかと思っていたらしい。


いろんな意味でギョーカイ臭さを感じる本だった。

  • 雑誌「現代思想」でテープ起こしのバイトをした経験から、論壇ギョーカイにも繋がりがあり
  • 現代音楽ギョーカイで賞をもらい
  • TVギョーカイでは「新題名のない音楽会」音楽アドバイザーを「右派」の黛俊郎から引き継ぐ
  • ベトナム帰還兵へのインタビューは田原総一朗の本から引用
  • 平泉澄と東大の関連は、立花隆を相当に参考にしているように思える


非エリート文系女子大生を相棒にして、事件の真相を探るという探偵物語(?)の中に、著者の回想などがはさみこまれ、最後は憲法について論ずる(というかアジっている?)という構成。
相棒はどんな女子大生かというと

ナチスって、ユダヤ人を迫害したんでしょ? ナチスが被害者意識を持つっておかしくない?」

という疑問を素直に口にする人。
そういえば、高校で世界史を教えなくなったというのが、去年のニュースで発覚してたな。


読者のレベルを、その程度だと想定しているのだろうか?
読み進めているうちに、この女子大生との会話は、そのままTV特番の台本を想定して書いているのではないかと感じた。 途中に田原総一郎立花隆茂木健一郎のコメントを挿入し、終わりには死刑廃止を主張する弁護士のコメントを、番組の番宣や冒頭とシメに筑紫哲也を出して、放送文化賞あたりを狙うという雰囲気。


前半は、大学の新入生に向かって、カルトにはまらないように説教しているという感じだ。
本の中の女子大生は説得できたようだが、現実はどうなんだろうなぁ? いちおう大学で実践はしているらしいが…
こんなので再発防止プログラムになるのだろうか、ちょっと疑問。


筑紫哲也の選評に「博覧強記、部分的には牽強付会の気味もあるが…」と有るが、「部分的」じゃぁ済まないのではないかとも感じる。
読み始めた最初から、私には違和感バリバリだったけれど、決定的だったのは以下の部分。

世界中にクリスチャンの墓として十字架が建てられているが、遺骸の上に劫罰の殺人責め具が立っていると見る人は、21世紀の今日、少なくとも先進国にはほとんどいない。
P.106

これを読んだときは、かなり呆れた。 博覧強記の底が割れたというか。
(ここから先は、人文系の考察については、ほとんど読む価値がないと判断したので、スイスイ読めた気がする。)


とにかく非歴史的に何でも持ち出す。 アサシンからアルカイダまで
戦前の日本の考察も相当に強引だ。 まぁ、立花隆を参考にして書いているのが丸わかりではあるけれども。


かなり大きな部分を占める脳生理学の考察について、茂木健一郎からなにか一言あるかなと思ったら、彼が言及していなかったことが、気になる。 参考文献として「脳とクオリア」があげられているのだけれど。
茂木による産経新聞書評 http://www.sankei.co.jp/books/shohyo/070107/sho070107008.htm



著者の無神経さが、気になったりもした。

地上波のテレビ番組にコンスタントに関わるようになってから私は右派の黛さんのカラーを弱める意味も含め、大江健三郎親子などのゲストを積極的に呼んだ。安定した収入が得られるようになったのは本当に助かった。
p92

せめて「光」という名前を書けないものかと思う。
大江光は音楽的に優れていたから呼んだのではなくて、政治的な道具だった、ということを無邪気にも書いてしまう。


獄中の「同級生」にゲラを読ませて校正してもらったといいつつ、訂正個所をあえて示すのは何故なんだろうか。
記憶違いの部分など、「親友」とは思えない勘違いという気もするし、それをそのまま残すというのも「無邪気」なのかなぁ?
本の宣伝文句では「親友」となっているが、サブタイトルは「同級生」。 「親友」ではなかったかも、という自覚はあるようだが…


ともあれ、これを推した選考委員、重松清 田中優子 筑紫哲也 佐野眞一 の評価が、私の中で相当にダウンし、崔洋一がアップした。


あと、どうでもいいが、「集団浴場」という言葉が出てくる。(p312)
Googleだと「集団浴場 の検索結果 約 213,000 件」かぁ。 公衆浴場か銭湯でいいんじゃないか?


う〜む
なんか、批判とか悪口ならいっぱい書けそうな本ではある。
開高健賞なので釣られた??