【資料】12月6日の日経夕刊、中沢新一インタビュー記事

  宗教から離れ格差解決を
  欧米・イスラムの価値観の違い、紛争の原因

  • 今日の紛争を語るときに無視できないのは、キリスト教を土壌に持つ欧米とイスラム教世界の対立の構図だ。多摩美術大学教授の中沢新一氏は、両宗教の価値観の違いが2つの世界に経済格差をもたらし、深刻な対立につながったとみる。


人間の脳はほかの動物と違い「過剰」な部分を持つ。この過剰が様々な「価値」というものを生み出してきた。資本主義はそこから発達した。
欧米を中心に広がった資本主義は「増殖」を是とする。つまり、お金を増やすことを罪悪とはみなさない。この考え方はキリスト教とは本質において抵触しない。
一神教は本来、増殖を肯定しないが、キリスト教一神教でありながら、父と子と聖霊三者を「三位一体」として信仰の対象にする。曖昧を許容する余地があり、とりわけ「聖霊」が増殖性を秘めている。そこに、資本主義の発達を促す源泉があった。

  • アッラーを唯一絶対的な存在と考えるイスラム教は価値の「増殖」に警戒心を持ち続けてきた。

「増殖」に不信感をもつイスラム教の厳格な教義の下で運営されている銀行は、現在でも利子を取ることを禁止している。ただし、イスラム教でも、お金を扱うこと自体を不浄としているわけではない。銀行も「投資による利潤」は許容している。金が金を生むといったバブルな部分を否定しているのだ。


一方、キリスト教では、十二−十三世紀ごろ「煉獄」という概念が定着し、これが「増殖」を肯定する流れを強めた。金貸し商人も、死後煉獄の山を登ることで、天国に行くことができるという概念だ。経済を発展させようと思えば、こうしたご都合主義的な考え方が必要になってくる。「煉獄」があるから、利子で稼ぐといった「増殖」はいっそう受け入れやすくなった。


「増殖」を積極的に是とするか、否とするか。この姿勢の違いが、キリスト教世界とイスラム教世界の経済格差をもたらした。経済的に立ち遅れがちなイスラム教世界は、貧困層を抱え込みやすい。


対立の背景には、この格差がある。宗教そのもののレヴェルではいくらでも共存は可能だ。宗教の問題にあまり拘泥せずに、格差問題を解決していくことが重要だ。

  • ■米同時テロ以降、意識が変わったのはアメリカ人ではなく、日本人だ。欧米の価値観がリードを続けることに対する疑念が、この事件をきっかけに刷り込まれたのではないかと中沢氏は考える。

キリスト教の世界とイスラム教の世界が深刻な対立の様相を見せる中で、日本人は非常にいい立ち位置にいるのではないか。それは「非宗教」で、宗教的な対立にあまり大きな意味を置かずに、客観的に見ることができるからだ。経済を非宗教の立場で再構築することもできるはずだ。


そのためには、イスラム教を知ることも大切だ。そもそもイスラム教で、アッラーは姿を持たず、森羅万象の中に宿っている。日本古来の神道と共通点が多く、日本人から見て実は分かりやすい宗教だ。

(聞き手は文化部 小川敦生)

ちょっと「独創的」すぎるのではないか?